弁護士 駒井重忠Blog

弁護士法人 菜の花

嫡出推定

親子関係って、どのようにして生じるのでしょう?

 そんなの、きまっているじゃないか。親に子ができたら親子だよ。

まぁ、簡単に言えば、そうなのですが。

お母さんは我が子を産み落としますから、「取り違え」がないかぎりは、

「この子は私の子!」と、はっきり言えますよね。

問題は、お父さん。。。

 はたして、この子は俺の子なのか?

文学的な、深い深い永遠のテーマが、実は父親にはあるのです。

子をあやす妻の笑顔をみながら、父親は、ふと、疎外感を感じるわけですな。

文学ならば、深い悩みに煩悶しておればよいわけですが、

法の世界は、文学よりもザッハリッヒですから、そうはいかない。

煩悶する間にも、子はすくすくと育っていく。父も年老いる。

子を育てる義務は誰にあるのか?相続権は誰にあるのか?

そういう現実的な問題に、答えなければならないわけです。

法律上、親子関係は大きく分けると二つの方法で発生します。

出生と、養子縁組です。

で、出生の場合、

法律上の婚姻関係にある男女の間に生まれた子は、夫の子と推定されます。

 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。

民法は、このように規定しているわけですな・・・(民法772条1項)

では、婚姻中に懐胎したかどうかをどうやって判断するのか?

法律は、ここも 「ばっさり」 しておりまして、

婚姻成立の日から200日を経過した後、又は離婚の日から300日以内に生まれた子は、

婚姻中に懐胎したものと推定するわけです(民法772条2項)。

つまり、 

婚姻成立の日から200日を経過した後、又は離婚の日から300日以内に生まれた子は、

夫の子と推定され、夫との間に父子関係が成立します。

これを、嫡出推定と言います。

嫡出推定によって父子関係が生じると、

父となった夫は、その子を育てる義務を負います。

たとえ、真実は、別の男性の子であったとしても・・・

では、

 この子は俺の子じゃない!

そう気がついた夫はどうすれば良いのでしょうか?

嫡出推定を覆す、反対の事実を証明すれば、父子関係が否定されます(民法774条)。

これを、嫡出否認と言います。

この場合、

出生を知った日から1年以内に、家庭裁判所に、嫡出否認の調停を申し立てることになります。

調停で決着がつかない場合、子又は母を被告として、嫡出否認の訴えを提起します(民法775条)。

では、

出生を知った日から1年を経過してしまっていた場合、

嫡出否認の訴えを提起することができるでしょうか?

できません。

子どもの身分関係を早期に安定させるためです。

(厳しいですね・・・)

では、

婚姻成立の日から200日を経過した後、又は離婚の日から300日以内に生まれた場合であっても、

夫が永く外国に滞在中で性的な関係をもつ機会がまったくない場合であったり、

数年間夫と別居していてい夫婦の実態が失われ、性的関係をもつ機会がまったくない場合であっても、

父子関係を否定するためには嫡出子否認の訴えを提起しなければならないのでしょうか?

こうした場合には、およそ嫡出推定の前提を欠いているわけですから、

嫡出推定が及びません。

こうした場合には、嫡出否認の訴えではなく、

親子関係不存在確認の訴えを提起することになります。

少なくとも、過去の最高裁は、そのように考えています。

嫡出否認の訴えは、嫡出推定を覆すためのものですから、

先ず、嫡出推定が働く場合でないといけないわけです。

およそ嫡出推定が働かない場合には、

推定を覆す前提を欠いているわけですから、

嫡出否認の訴えを用いる必要はないということです。

このへんが、法律のややこしいところです。

じゃあ、

 およそ嫡出推定が働かない場合って、どうやって判断するの?

当然、そういう疑問がわいてきますよね。

で、これがまた、

はっきりしているような、していないような、ところがありまして。

基本的には、

 事実上の離婚、長期別居、失踪、長期海外赴任中など、

 同棲の欠如が客観的に明確で、外観上、夫婦の子でないことが明らかな場合

とされています。

一方、

DNA鑑定で父子関係が否定されただけでは、およそ嫡出推定が働かない場合とは言えないと、

7月17日の最高裁は判断したわけです。

最高裁は、

生物学的な父子関係がないことが明らかになっても、

それ以上に、子どもの身分の安定を図る必要があると判断したようです。

子どもの身分の安定を図るために、

法律上の父子関係と生物学上の父子関係が一致しない場合を認めたわけですな。

しかし、そうであれば、なぜ?

という疑問がわいてきます。

同棲の欠如が客観的に明確で、外観上、夫婦の子でないことが明らかな場合には、

どうして、子どもの身分の安定が尊重されないのでしょうね?

おそらく、この場合には、もともと父子の情愛に基づく関係が作られていないのが通常だと考えるのでしょう。

一方、DNAの方はというと、

この場合には、

すでに子は父から我が子として育てられており、父子の情愛に基づく関係が作られているので、

これをDNA鑑定の結果だけで引き離すべきでないと考えたのでしょうね。