弁護士 駒井重忠Blog

弁護士法人 菜の花

相続放棄の期間制限(熟慮期間)について

相続放棄は、相続人が、自己のために相続の開始があったことを知ったときから、3ヶ月以内に、手続をしなければなりません。

つまり、自分が相続人となったことを知ったら、そこから3ヶ月以内に相続放棄の手続をしなければなりません。

相続は人の死亡と同時に始まります。

相続開始に特別な手続は必要ありません。

ですから、被相続人の死亡を知ったときから3ヶ月以内です。

たとえば、父A、母B、子Cの三人家族の場合を考えましょう。
父Aが1200万円の借金を残して死亡したと仮定します。
Aに資産はなかったとしましょう。

母B(配偶者)と子Cは父の死亡と同時に父を相続します。
したがって、死亡と同時に、父の借金を相続によって引き継ぎます。

法定相続分は、配偶者が2分の1、子が2分の1ですので、Bは600万円の借金を負担しなければならず、Cも600万円の借金を負います。

母Bと子Cが借金を拒むためには、相続放棄の手続が必要です。

BとCは、父の死亡を知ったときから3ヶ月以内に、家庭裁判所で、相続放棄の手続をしなければなりません。

注意しなければならないのは、家庭裁判所で、相続放棄の手続(「相続放棄の申述」)をする必要があるということです。

仮に、父Aにその母親Dが生きていたとしましょう。実母だけでなく、養母も含まれます。

法律上、第一順位の相続人は子ですが、子が相続放棄した場合、直系尊属(父、祖父、曾祖父)が第二順位の相続人になります(この場合であれば父の母親です。)。

子Cが相続放棄をすると、Cは最初から相続人ではなかったことになりますので、父の母親Dは、Cが相続放棄をした時から、相続人となります。

配偶者と直系尊属が相続人の場合、法定相続分は、配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1です。

したがって、上の例の場合、Bは800万円の借金を負い、Dは400万円の借金を負うことになります。

Dが借金の相続を拒みたいときは、Dが、Cの相続放棄を知ったときから3ヶ月以内に、家庭裁判所で、相続放棄の手続をしなければなりません。
相続人は、3ヶ月以内に相続放棄の手続をしなければ、相続を承認したことになります。

相続を承認すると、資産のみならず、借金も引き継ぎます。

承認するか、放棄するかは、慎重に判断しなければなりません。

相続財産の有無や状況について、きちんと調査した上で、どちらを選択するかをよく考えるために与えられたのが3ヶ月です。

この3ヶ月を、一般に「熟慮期間」といいます。

相続の開始を知ったときから3ヶ月ですが、相続開始を知った日の翌日から3ヶ月以内に相続放棄の手続をとらなければなりません。

ちなみに、遺言によって、包括的に遺贈を受けた包括受遺者も「相続人」に含まれます。

包括受遺者も、相続の開始を知ったときから3ヶ月以内に、相続放棄の手続をしなければ、相続を承認したものとみなされ、資産と借金を、包括的に引き継ぐことになります。

以上が原則です。

しかし、相続人がかならずしも被相続人の財産の詳細を知っているわけではありません。

熟慮期間が経過した後に、借金の督促を受けて初めて、借金を知ることがあります。

こうした場合に相続放棄ができないとなると、相続人は不測の損害を被るおそれがあります。

そこで、判例は、一定の要件の下において、例外的に、熟慮期間の起算点を借金の存在を知ったときまで遅らせることを認めています

この一定の要件については、次回、述べたいと思います。