弁護士 今田慶太blog

弁護士法人 菜の花

LGBT法案

先日、LGBTと呼ばれる性的マイノリティーの人たちへの理解を促進するための法案の国会への提出が見送られました。

「差別は許されない」法案中のこの一言を巡る自民党内での攻防だったと各種メディアは伝えています。

LGBTとは、Lesbian(女性の同性愛者)、Gay(男性の同性愛者)、Bisexual(男性と女性の双方に対して恋愛感情や性的魅力を感じる両性愛者)、Transgender(自己の身体の性に対し違和感を覚える人々を総称する言葉)のそれぞれの頭文字をとった単語で、性的マイノリティの総称として使用されています。

日本におけるLGBTの人口は、その調査の困難性を前提にしつつも、人口の8%~10%程度と言われていますので、私たちの身近なコミュニティの中で当たり前に存在していておかしくありません。もし、「私の周りにLGBTはいない」と思う方がいるのであれば、もしかするとその認識は誤りなのかも知れません。

LGBTが社会で直面する困難のリストを、一般社団法人 性的指向および性自認等により困難を抱えている当事者等に対する法整備のための全国連合会 (通称:LGBT 法連合会)が発表しています。リストには、354の困難の具体例が紹介されており、これを見ると、社会一般のLGBTに対する無理解や偏見により、LGBTであることを隠して生活することを余儀なくされている当事者の状況が見て取れます。また、LGBTの困難は、子ども・教育、就労、カップル・養育・死別・相続、医療、福祉、公共サービス・社会保障、民間サービス・メディア、刑事手続、その他(地域・コミュニティ)といった幅広い領域で発生しており、社会全体に深く関係する問題となっていることがよく分かります。

LGBTの問題が訴訟の場で争われることも多くなってきました。

例えば、タクシー運転手の化粧が問題になった次のような事件があります(淀川交通(仮処分)事件 大阪地裁令和2年7月20日決定労判1236号79頁)。

原告は、医師から性同一性障害との診断を受けていて、生物学的性別は男性であるが、性自認は女性のタクシー乗務員でした。

原告は、ホルモン療法を受けつつ、化粧を施し、女性的な衣類を着用して社会生活全般を女性として過ごしていました。

この事件では、原告が化粧をして乗務に従事することが、会社の就業規則(身だしなみ規定)に反するか否かが争点の一つになりました。

裁判所は、サービス業であるタクシー業を営む会社が、その従業員に対し、乗客に不快感を与えないよう求める身だしなみ規定の「規定目的自体は正当性を是認することができる」としつつ、「本件身だしなみ規定に基づく、業務中の従業員の身だしなみに対する制約は、無制限に許容されるものではなく、業務上の必要性に基づく、合理的な内容の限度に止めなければならない」と判示します。その上で、性同一性障害との診断を受けた原告にとって、「外見を可能な限り性自認上の性別である女性に近づけ、女性として社会生活を送ることは、自然かつ当然の欲求であるというべきであ」り、「女性乗務員と同等に化粧を施すことを認める必要性があるといえる」と判示しました。

また、LGBTに関する裁判で、今大きな注目を集めているのは、トランスジェンダーが自認する性別によるトイレを利用することが法的利益に値するかが問題となった経産省職員事件ではないでしょうか。

原告は、生物学的性別は男性であるが、性自認は女性の国家公務員であり、経済産業省に所属していました。

原告は、平成11年頃には、医師から性同一性障害の診断を受け、平成20年頃からは、私的な時間の全てを女性として過ごすようになりました。

原告は、平成21年、職場の室長に自らが性同一性障害であることを伝え、次の異動を契機に女性職員として勤務したい旨の要望を申し入れました。その上で、女性用トイレの使用を認めることを含む要望を申し入れました。これを受け、経産省は、平成22年、原告が所属する室の職員に対する説明会を実施し、原告は、その翌週から、女性の身なりで勤務するようになり、経産省が使用を認めた女性用トイレを日常的に使用するようになりました(勤務場所のあるn階から2階以上離れた階の女性用トイレ)。

一審判決(東京地裁令和元年12月12日判決労判1223号52頁)は、「性別は、社会生活や人間関係における個人の属性の一つとして取り扱われており、個人の人格的な生存と密接かつ不可分のものということができるのであって、個人がその真に自認する性別に即した社会生活を送ることができることは、重要な法的利益として、国家賠償法上も保護されるものというべきである。」「そして、トイレが人の生理的作用に伴って日常的に必ず使用しなければならない施設であって、現代においては人が通常の衛生的な社会生活を送るに当たって不可欠のものであることに鑑みると、個人が社会生活を送る上で、男女別のトイレを設置し、管理する者から、その真に自認する性別に対応するトイレを使用することを制限されることは、当該個人が有する上記の重要な法的利益の制約に当たると考えられる。」「原告が専門医から性同一性障害との診断を受けている者であり、その自認する性別が女性なのであるから、本件トイレに係る処遇は、原告がその真に自認する性別に即した社会生活を送ることができることという重要な法的利益を制約するものであるということになる。」等と判示し、120万円の慰謝料を認めました。

これに対し、東京高裁は、5月27日、トイレの使用制限を違法とした一審判決を変更し、職員の逆転敗訴としました。

控訴審判決の全文にまだ接していませんが、高裁は、急激な社会変化と混乱を懸念したのかもしれません。

事件の今後に注目しつつ、私自身も、知らないうちにLGBTを傷つけていないか、思いを馳せてみようと思います。